漫画家・竹谷州史のブログです。
Posted by 竹谷州史(たけやしゅうじ) - 2009.11.25,Wed
かみさんと散歩している途中、路上に落ちている鍵を見つけた。
もうすでに帰路であり、交番は坂の上にあり、
持ち主が道々を探して、戻ってくるかも知れぬので、
おいておこう、と私は思ったが、
かみさんは落し物を届けるのは生涯で初めてだと言うので
交番まで届ける事にした。
私はといえば、かつて子供の頃、財布を拾って届けた事がある。
その財布はおそらく捨てられた物か、
もしくはとうの昔に別の者に拾われ中身を抜かれた物か、
ぼろぼろの空の財布であった。
しかし、子供というのは、はた迷惑な正義感を持っているもので、
それを、交番に届けた。
交番の警官がどんな対応であったかは忘れたが、
「おー、よしよし、良い子だねえ」
といった感じで、褒めてくれたような気がする。
その頃、母方の祖父母の家で暮らしていた私は、
帰宅後、祖母に財布を拾った顛末を鼻息荒く伝えた。
祖母は驚いて、私を褒めた後、
「落とした人は喜んだだろうねえ、で、いくら入っていたの?」
と言った。
実際は「0円」なのだが、それを言ってしまったら
「ゴミ同然の財布を交番に届けて無理やり褒めてもらった」
という、本当のことがばれてしまうので、
「じ……10万円……。」
とウソを答えた。
祖母はさらに驚いて去っていった。
子供にとって10万円にリアリティなどない。
1万円も1兆円も1億万兆円も同じである。
うそ寒~い気持ちで夕飯を待っていると、
母方の祖母は、かくしゃくとした、しっかり物なので、
案の定、交番に問い合わせたらしく、
ウソは瞬時にばれてしまった。
「なぜこの子はつかないでいいウソをつくかねえ」
と言われたような気がする。
久しぶりに訪れた交番は私の故郷の交番の印象と、さほど変わらず、
2人の警官に対応された。
その中年の男性は、いわゆる警官の印象の格好ではなく、
白髪にキャップ、作業員のようなジャケットの胸元に、
交番相談員、と書かれたワッペンが縫い付けてあった。
唯一胸ポケットから肩へのびた無線機のらせん状のコードが
警官らしいといえばらしい。
落とした場所を大判の地図で確認した後、
住所や氏名などの書類に記入するための質問にいくつか答えた。
「車ですかねえ?家ですかねえ?」という話題になった。
ひろった鍵はブランド物のキーカバーにひとつだけ付属していて
鍵の重要度をしめしているように思えた。
警官は鍵に刻印されたメーカー名を見て、「こりゃ家だね」と言った。
持ち主が現れた際に、報酬を貰いたいか、
また、その際に、持ち主に住所を教えてもよいか、という質問をされ、
その一切を拒否する旨を伝えて、交番を去った。
清く正しいねえ、などとかみさんにからかわれたが、
私は、こんなことで恩を返されたり、
こんなことから始まる人間関係が、うまくいくはずがないからだ、と答えた。
なにか頭の中で、
こんなきっかけで知り合った二つの家族が
最初は煩わしいながらも好意的に接していくうち、徐々にほころびていき、
妙な宗教や、サークル活動に誘われたあげく、決定的に断絶する、
といった架空の物語がむくむくと進行していた。
どうも、警官に「お礼を要求しますか?」と質問された時に
自分の子供の頃の、浅ましい虚栄心を見透かされたような
気がしたのだろう。
かみさんは、はじめての交番を、それなりに楽しんだようで、
軽い足取りで帰路の坂道を降りていった。
もうすでに帰路であり、交番は坂の上にあり、
持ち主が道々を探して、戻ってくるかも知れぬので、
おいておこう、と私は思ったが、
かみさんは落し物を届けるのは生涯で初めてだと言うので
交番まで届ける事にした。
私はといえば、かつて子供の頃、財布を拾って届けた事がある。
その財布はおそらく捨てられた物か、
もしくはとうの昔に別の者に拾われ中身を抜かれた物か、
ぼろぼろの空の財布であった。
しかし、子供というのは、はた迷惑な正義感を持っているもので、
それを、交番に届けた。
交番の警官がどんな対応であったかは忘れたが、
「おー、よしよし、良い子だねえ」
といった感じで、褒めてくれたような気がする。
その頃、母方の祖父母の家で暮らしていた私は、
帰宅後、祖母に財布を拾った顛末を鼻息荒く伝えた。
祖母は驚いて、私を褒めた後、
「落とした人は喜んだだろうねえ、で、いくら入っていたの?」
と言った。
実際は「0円」なのだが、それを言ってしまったら
「ゴミ同然の財布を交番に届けて無理やり褒めてもらった」
という、本当のことがばれてしまうので、
「じ……10万円……。」
とウソを答えた。
祖母はさらに驚いて去っていった。
子供にとって10万円にリアリティなどない。
1万円も1兆円も1億万兆円も同じである。
うそ寒~い気持ちで夕飯を待っていると、
母方の祖母は、かくしゃくとした、しっかり物なので、
案の定、交番に問い合わせたらしく、
ウソは瞬時にばれてしまった。
「なぜこの子はつかないでいいウソをつくかねえ」
と言われたような気がする。
久しぶりに訪れた交番は私の故郷の交番の印象と、さほど変わらず、
2人の警官に対応された。
その中年の男性は、いわゆる警官の印象の格好ではなく、
白髪にキャップ、作業員のようなジャケットの胸元に、
交番相談員、と書かれたワッペンが縫い付けてあった。
唯一胸ポケットから肩へのびた無線機のらせん状のコードが
警官らしいといえばらしい。
落とした場所を大判の地図で確認した後、
住所や氏名などの書類に記入するための質問にいくつか答えた。
「車ですかねえ?家ですかねえ?」という話題になった。
ひろった鍵はブランド物のキーカバーにひとつだけ付属していて
鍵の重要度をしめしているように思えた。
警官は鍵に刻印されたメーカー名を見て、「こりゃ家だね」と言った。
持ち主が現れた際に、報酬を貰いたいか、
また、その際に、持ち主に住所を教えてもよいか、という質問をされ、
その一切を拒否する旨を伝えて、交番を去った。
清く正しいねえ、などとかみさんにからかわれたが、
私は、こんなことで恩を返されたり、
こんなことから始まる人間関係が、うまくいくはずがないからだ、と答えた。
なにか頭の中で、
こんなきっかけで知り合った二つの家族が
最初は煩わしいながらも好意的に接していくうち、徐々にほころびていき、
妙な宗教や、サークル活動に誘われたあげく、決定的に断絶する、
といった架空の物語がむくむくと進行していた。
どうも、警官に「お礼を要求しますか?」と質問された時に
自分の子供の頃の、浅ましい虚栄心を見透かされたような
気がしたのだろう。
かみさんは、はじめての交番を、それなりに楽しんだようで、
軽い足取りで帰路の坂道を降りていった。
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プロフィール
HN:
竹谷州史(たけやしゅうじ)
性別:
男性
職業:
漫画家
自己紹介:
岩手県盛岡在住の漫画家。
最新作「災厄乙女パン子」(月刊日ヒーローズ)。
最近は主にツイッターが中心。
既刊「Smoking Gun民間科捜研調査員流田縁」(グランドジャンプ)「拝金」(コミックゼノン)「紅蓮の花真田幸村」(コミックバンチ)「まっしろけ」「astral project月の光」「皆殺しのマリア」「LAZREZ」「PLANET7」(以上コミックビーム)など。
おしごと募集中。
最新作「災厄乙女パン子」(月刊日ヒーローズ)。
最近は主にツイッターが中心。
既刊「Smoking Gun民間科捜研調査員流田縁」(グランドジャンプ)「拝金」(コミックゼノン)「紅蓮の花真田幸村」(コミックバンチ)「まっしろけ」「astral project月の光」「皆殺しのマリア」「LAZREZ」「PLANET7」(以上コミックビーム)など。
おしごと募集中。
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